健康教室 野口整体から見た病気 |
症状即療法
「進化医学から見た病気」で説明しましたように、西洋医学には、病気の存在理由などを考える進化医学という分野があります。
しかし、野口療法(整体)(気の整体)の創始者である野口晴哉(のぐちはるちか)先生は、進化医学ができる前に、病気についてはるかに深い洞察をしています。
野口療法(整体)の基本的な考え方は、現在の症状自体が身体を改善する、つまり、症状即療法ということです。
この考え方にいたるきっかけは風邪(かぜ)の症状でした。野口先生は、多くの人の身体を観て、風邪が治ると身体の歪みが解消され、風邪をひく前より身体の調子が良くなっていることに気づきました。
まず、風邪を例にとって、症状即療法の意味を説明します。
風邪をひくと、鼻水がでたり、咳(せき)が出たり、あるいは発熱します。
鼻水は、鼻腔内の細胞から分泌された粘液と血管からの浸出液などの混合液ですが、風邪をひくと、鼻や喉に付着した病原体を殺菌し洗い流すために鼻水が分泌されます。
咳(せき)は、気管、喉頭(いんとう)、呼吸筋の(反射的な)収縮運動です。従って、咳は、肺や気道から空気を強制的に排出させますので、咳(せき)は、感染した病原体を体外に排出させる効果があります。
また、発熱は、感染した病原体を撃退するために起こす身体の反応です。
要するに、症状は病気を治そうとする身体の反応であり、症状即療法になります。
風邪をひけ!熱を出せ!
さらに、一歩進んで、風邪をひいて回復すれば、ひく前よりも健康になります。
このことは、野口療法(整体)の立場から見ますと、極めて明白な事柄になります。
先に述べたように、風邪をひく人は骨盤がゆがんでおり、回復すると骨盤のゆがみが解消され、肌のつやが良くなるからです。
さらに、風邪は寒い冬にひく傾向がありますが、この時期は汗が出にくく、体内に溜まった毒素を排除しにくい時期でもあります。従って、寒い時期に風邪をひいて発熱すれば、汗とともに毒素を体外に排出することになります。
従って、毒素の排除という観点から見ても、風邪をひいた方が良いことになります。
少なくとも、年に1、2回は、風邪をひくほうが健康に良い可能性があります。
とくに、季節の変わり目は、身体が環境の変化に対応して変わる時期です。従がって、身体が環境の変化に柔軟に対応できない場合、風邪をひいて環境変化に対応しようとします。
つまり、季節の変わり目は風邪をひきやすく、また、風邪をひいた方が、身体に良い効果をもたらします。
このような理由から、野口先生は、60年以上も前から
「風邪をひけ!熱を出せ!」(そうすれば、より健康になる)
と説いていました。
野口療法(整体)では、「風邪をひく」という感覚ではなく、「風邪を経過する」という捉え方をします。
また、<補足>の足湯(そくとう)をうまく活用しますと、風邪は、数時間から半日位で回復します。
症状は回復反応
風邪の例からお分かりいただけると思いますが、各種の症状は身体が病気を治そうとしている身体の反応になります。
以下に、もう少し具体例を記します。
1.発熱
発熱は、体内の殺菌・消毒と血液循環の促進および排毒の役割があります。
発熱について、もう一度繰り返しておきますと、発熱はリンパ球を増やして免疫力を高める必要があるときなどに起こります。
発熱の主な役割は、以下の3つです。
身体(筋肉)を緩め、血液循環を良くする。
(その結果、)免疫力を高め、ウイルスやがん細胞などの増殖を防ぐ。
発汗により、体内の有害物(毒素)を排出する。
要するに、発熱は治癒作用です。
従って、熱が出たと言って、薬で熱を下げることは、愚の骨頂(ぐのこっちょう)です。
2.下痢・出血など
下痢や出血には体内毒素・不要物を排泄する役割があります。
一般に、排尿・排便・発汗は体内の不要物を体外に排出することです。つまり、リンパを含む血液循環が正常に行われていることの証になります。
しかし、体内に非正常な有害物や不要物があれば、これを下痢や出血などで排出しようとします。その結果、身体の各器官(の組織細胞)などへの被害を防ぎます。
3.痛み
痛みには、外敵の撲滅・体内修復と警告の役割があります。(痛みは、酸素不足、つまり血液循環の悪化によって生じることが少なくありません)
痛みは、身体を襲う危険を察知して、これを回避する生体防御機構の一部で、警報としての役割を担っています。
従って、痛みは、体温、呼吸、脈拍、血圧と同じく、生命の証(バイタルサイン)になります。
しかし、痛みには、警告だけでなく、修復の役割もあります。
痛みの本質は、潜在意識との関わりにあるのですが、説明が長くなるのでここでは省きます。
通常、痛みを感じるということは、組織が損傷していることを意味します。
組織に損傷が生じると、炎症が起き組織が修復されます。この間、痛みが発生します。この痛みは、組織の修復を行っているという合図になります。
同時に、この痛みは、組織の修復中にその部分を動かさないように警告する役割もあります。
痛みが警告以上の意味を持つことを、(五十肩のような)肩の痛みについて説明します。
肩が痛いということは、肩にコリがあり、血流が悪くなっていることを警告しています。このままコリを放置しますと、心臓と脳の間の血流がさらに悪化して、深刻な事態になるので早くコリを解消するように促しているわけです。
同時に、肩が痛いということは、腕を痛くない方向に動かすように促すサインでもあります。そして、痛くない方向に腕を動かしていると、コリ(血流の悪化)は解消され、痛みが消えます。
このように、痛みは警報であると同時に、痛みの原因の解消を促す役割があります。少なくとも、痛みは病と戦っている証(生きている証)です。
現在の西洋医学では、痛みに対してこのような認識は持っていないだろうと思います。
4.食欲不振
食欲不振は、内臓(とくに消化器系)の休息(癒し)と免疫力を高める効果があります。
身体の回復には、内臓の休息だけではなく、血液中の栄養素の量を減らすことが重要です。
内臓の働きが弱っているときに、食事をしますと、血中の栄養素の量が増えます。免疫細胞は、これらの栄養素を外敵と判断して攻撃しますが、栄養素の量が多いと、その処理に免疫細胞の多くが忙殺されるようになりますので、本来の外敵に対する防衛力が弱くなります(食べすぎは免疫力を低下させます)。
食べ過ぎるとがんになりやすい理由の一つが、この免疫力の低下です。
また、血中の栄養素は外敵の栄養にもなります。
たとえば、細菌は鉄分を大変好み、鉄分が豊富にあると元気よく増殖します。
従って、身体は、細菌に感染されて、細菌が身体に悪影響を及ぼすほど増殖しますと、鉄分を多く含む食べ物を避けるようになります(体内の鉄分を減らそうとします)。
5.だるさ・倦怠感(けんたいかん)
だるさ・倦怠感は、心身の休息を促す効果があります。
体内でつくられるエネルギーは、体温維持、活動、体内修復などに使われますが、疾患があると、外敵との戦い、身体の修復に多くのエネルギーが必要になります。そのため、身体は、大量のエネルギーを消費する(体壁系の)筋肉や大脳の動き(働き)を抑制しようとします。それが、だるさや倦怠感(けんたいかん)を感じる理由です。
このように、各種症状は、身体が病気を治そうとして起こす身体の反応になります。
西洋医学における治療の多くは、薬でこのような症状を抑える対症療法ですが、身体の反応に逆らう、非常に不自然な治療法であることがご理解いただけると思います。
病は大病を防ぐために患う
一般に、病は、より深刻な病を防ぐために患う(経過する)という側面があります。
肩こり(肩の痛み)
肩こりを解消することによって、首筋の血流を良くし、心臓・脳の疾患にまで悪化することを防ぎます。
肌荒れ・にきび・吹き出物など
有害物を体外に排泄することによって、組織細胞への悪影響を除きます。
出血
有害物を体外に排泄することによって、血液を浄化し、組織細胞への悪影響を除きます。
胆石・結石
有害物を一ヶ所に集めて(固化)、血液を浄化し、組織細胞への悪影響を除きます。
風邪
身体を緩ませて、身体のゆがみを直し、体内に溜まった毒素を排出します。
身体が硬く、ゆがみのある状態を放置しますと、血液循環の停滞を招き、長期的にはがんなどの深刻な病を患う危険性が高まります。
など
病を経過すると、身体はより丈夫になる
一般に、病が回復すると、患う前よりも身体は丈夫になる傾向があります。
このことは、風邪で説明しましたが、他の例をあげておきます。
下痢
消化の悪いものを食べて下痢をしますと、回復すれば、下痢をする前よりも胃腸が丈夫になっています。
骨折
骨折して、接合部がうまく合うようにつなげておけば、完全に接合した箇所は、折れる前より強くなっています。
従って、二度とその部分で折れることはありません。折れるような衝撃を受けた場合には、接合部以外の場所で折れます。
感染
ウイルスなどに感染して回復しますと、そのウイルスに対する抗体ができますから、二度とそのウイルスには感染しません。
毎年、新型インフルエンザで騒ぐことが少なくありませんが、インフルエンザにかかる人は、大人より子供の方が多い傾向があります。
これは、大人の場合、多くのウイルスに感染して多数の抗体ができているため、多少異なる新種のウイルスに感染しても抵抗力がありますが、子供は抗体の種類が少ないために、新型のウイルスに対する抵抗力が弱いからです。
その他
身体は本能で捉(とら)えることが重要
「食べる時間だから食べる、寝る時間だから寝る」という時間や情報に縛られた生活よりも、
食べたいときに、食べたいものを食べ、眠くなれば寝る生活(身体の欲求に従って生きること)
の方が重要です。ただし、身体が整っていることが前提になります。
身体が整っていれば、頭で考えなくとも身体が教えてくれます。
身体は季節によって変化する
身体は、四季によって変わります。
たとえば、冬は身体が締まり、交感神経優位の傾向がありますが、夏は身体が緩み、副交感神経優位になる傾向があります。
従って、そのような身体の変化を理解して対応していく必要があります。
身体の声を聞く
身体がおかしくなってから医者に行くのではなく、身体の不調にいち早く気づく敏感さが重要です。
たとえば、頻繁(ひんぱん)に風邪をひくことは好ましくありませんが、風邪の引けない鈍い身体は危険です。
昔、風邪に負けない体を作るために、「寒風摩擦」が流行りましたが、これは鈍い身体を作る行為になります。
有害なものを食べても、嘔吐(おうと)や下痢のできない鈍い身体は、食中毒になる確率が高くなります。
敏感な身体は、環境の変化に柔軟に対応しますので、健康の維持が容易になります。
身体を温めることが重要
野口療法(整体)には、健康の大敵が冷えであり、多くの病気は冷えによって生じるという認識があります。
従って、体を冷やさず、温めることは、健康維持に不可欠の要素になります。
外にも、体癖と感受性など、病気に関する卓越した考え方がありますが、説明が長くなりますので省略します。
<補足1> 風邪とは
ついでに、西洋医学から見た風邪について説明しておきます。
風邪の症状
風邪をひくと、咳(せき)、のどの痛み、声枯れ、鼻水、悪寒、発熱、頭痛などの症状がでます。
また、胃腸の働きが悪くなりますので、食欲不振、下痢などをしやすくなります。特に夏風邪は、下痢を伴うことが多くなります(消化管のウイルス感染によって、下痢、嘔吐(おうと)、腹痛などがおこることもあります)。
風邪の原因(西洋医学)
風邪は、病原体が鼻腔や咽頭などに感染して生じる炎症性の病気です。病原体の8割以上はウイルスで、その数は数百種類(もしくはそれ以上)あります。そのため、身体には適合する抗体がなく、何度も感染したり、症状や経過が、そのたびに異なります。
冬に多い風邪ウイルスは、アデノウイルス、ライノウイルス、コロナウイルスなどです。
ウイルス以外に、細菌やマイコプラズマ、クラミジアなどの感染によって生じる場合もあるようです。
特に、細菌による風邪はこじらせやすく、肺炎などの病気を招く危険性があります。
ちなみに、野口療法(整体)では風邪の原因をウイルスなどの病原体ではなく、風邪をひく身体に求めます。
風邪をひいた人だけがウイルスに感染しているわけではなく、多くの人がそのウイルスに感染しているはずです。にもかかわらず、一部の人だけが風邪をひくのは、その身体に問題があると考えるわけです。
一般化すれば、多くの病気においても病気の原因はその病気を患う身体にあります。
病気の原因を身体に求める考え方にこそ、予防医学の本質があるように思います。
<補足2> 風邪・インフルエンザの予防法・回復法
風邪はひいた方が良いと書きましたが、より重要なことは、風邪をうまく経過することです。
そのための方法として、足湯(そくとう)があります。風邪をひきそうな場合や風邪をひいた場合には、以下の足湯を行ってください。
足湯は何時行っても結構ですが、理想は寝る前です。1日で回復しなければ、回復するまで繰り返してください。
うまく行えば、1回で回復します。
足湯(そくとう)
入浴温度より2.5度〜3度高い湯に、6分間、くるぶしが隠れるまで足を入れます。
お湯の温度が下がらないように、時々、差し湯をします。
丁度6分で、足を湯から出して、その足を良く拭き、(水を飲んで)すぐ寝ます。
一般に、水を飲むことは必要ではありませんが、身体が熱くて寝れない場合には、水を飲んでください。
また、お風呂の湯で体を温めた後に行うことは避けてください(お風呂に入った場合、1,2時間程後にしてください)。