<放射能に関する雑感> |
がん関連で放射能について説明しようとしますと、書きたいことがいくらでもあふれ出てきますので、きりがありません。そのため、この機会に、本論からはずれた独り言を少しだけ追加させて頂きます。
少なくとも、放射能と原子力発電の問題に限れば、抽象的な話ではありませんので、意見が一致しなくとも(一致する必要はありません)、もう少し本質的な議論が出来るはずですが、マスメディアをみるかぎり、水掛け論に終わっています。
これまで、イメージだけで中身のない言葉しか使えない人々が、マスメディア、教育界及び政治の世界で幅をきかせてきました。無意味な言葉の例として、右翼、左翼、保守、革新、中道、ハト派、タカ派、改革、反動、リベラル、独裁者など、たくさんあります。このような言葉は、人によって、国によって、また時代によって、解釈やイメージが異なってきます。そのような中身のない、イメージだけの言葉しか発せられない人々を、知識人として扱う社会は、大変質が低いと言わざるを得ません。過去、何度も観てきた彼らの議論は、「おまえの母ちゃん、でべそ!」と言い合っている子供のけんかと同じで、何の生産性も、新しい知見を得る可能性も、全く期待できません。あまりにも次元が低すぎます。そして、これは、社会一般で見られる現象です。
現実を直視・分析して、解決策を見いだす努力をすることは、ものごとの基本ですが、日本では、高学歴になるほど、抽象的な言葉に酔いしれ、現実無視の世界、脳内麻痺の世界に入り込む傾向があるようです。その結果、現実からかけ離れた妄想と憎しみが大きく育ち、(論理的な基盤がないために、)洗脳されやすくなります。
要するに、多くの例外はあるにせよ、高学歴になるほど、アホウになる傾向があります。これは、知的怠慢、現実と向き合う努力の放棄が招いた結果ですが、この問題は、大学が温床になっているため根が深く、多くの人がそのことに気づかないと解決しません。より良き社会、より良い生活を得るための創造や変革には、膨大なエネルギーが必要です。不断の努力だけでなく、不屈の精神と集中力の持続、そのための情熱がないと出来ません。
対案を持たない、生産性のない批判をするだけで許されるぬるま湯に浸かっていますと、必ず精神の荒廃を招き、高潔さと無縁の存在になります。そのような人々の天国となるような社会は、腐敗、堕落した社会であり、若い人々の夢と活力に満ちた社会とはかけ離れた社会です。
言い換えると、あいまいな言葉しか言えない人々に、違和感を持たない社会では、社会の各層で、無能で無責任な人々が蔓延(はびこ)ります。東電など原発事故に関する問題、日本が抱える様々な問題の根底に、この問題があるように思います。
吉田昌郎 福島第一原子力発電所 前所長について
東京電力福島第一原子力発電所の吉田昌郎(まさお)前所長は、3月11日の東日本大震災以降、8ヶ月の間、原発事故の収束に向けて陣頭指揮をとっていましたが、現在、病気療養のために入院しておられます。
東京電力の話では、吉田前所長は食道がんとのことです。
福島原発事故の後、周辺で甲状腺がんや白血病が増えたとか、吉田前所長もこの放射能でやられたなどの噂がインターネット上を飛び交っていました。今も、吉田所長死亡や吉田所長自殺のタイトルのページが後を絶ちません。
このホームページを訪れる方は、がん細胞が発生してから臨床的ながんになるまでに、少なくとも4,5年、常識的には10年以上かかることをご理解頂いているはずですから、放射能汚染の後、急にがんが増えたとか、吉田前所長が、放射能汚染でがんになった、という話を信じることはないと思います。
ただ、吉田前所長のがんが、今回の事故と無関係であるとは言い切れません。
これまで何度も説明してきたことですが、極限的な緊張状態が持続すれば、血流の停滞が起こり、がん細胞が急速に増殖します。交感神経の過緊張が続いた結果です。この場合、元々、ミリがんがあり、そこで血流の停滞があれば、1年以内に臨床的ながんに成長します。特に、食道がんは進行が早いので、急速に成長するはずです。
従って、吉田前所長の場合には、今回の事故処理のために、精神的緊張状態が続いた結果、大きくなったことは考えられます。また、あまり、暖房もできずに身体を冷やしていた可能性もあります。この場合も、血流の停滞を招き、がんを大きくします。
ただ、食道がんは、初期症状が現れにくいがんですので、事故前から検査すれば見つかるほど成長していた可能性が一番大きいように思います。手遅れになるケースが多いがんですが、恐らく、日々、違和感を感じながら、目処(めど)がつくまで、無理をして頑張ってこられたのでしょう。手遅れでなければ良いのですが、非常に心配しています。
福島の事故は、はるかに悲惨な事故になっていた可能性がありますが、それを身体を張って阻止した吉田前所長には、いくら感謝してもしすぎることはありません。1日も早いご快復を心から願っています。
冷凍ミカンなどの放射能騒ぎについて
2012年5月に、学校給食に出す冷凍ミカンから、放射性セシウムによる放射能が検出されました。
川崎市の冷凍ミカンで9.1ベクレル/Kg、横須賀市の冷凍ミカンでは6.5ベクレル/Kgなどです。そのため、一部父兄の反対によって給食に出すことを中止したようです。
たとえ1ベクレルであれ、放射能が検出されれば、不気味であり、恐れるのは当然です。従って、給食に出すのを反対することは理解できますし、実際に、中止したことも理解できます。
ただ、私たちは、今回の放射能汚染とは無関係に、太古の昔から放射能を浴びてきていますし、体内でも放射能被ばくをしています。放射能に敏感になるのは良いことですが、それなら、私たちが、常に放射能を浴びて生活し、これらの冷凍ミカンよりはるかに多くの放射線を放出している食品を昔から食べていることも理解する必要があります。
冷凍ミカンに話を戻しますと、仮に、この冷凍ミカン1kgあたり10ベクレルのセシウム放射線がでているとして、このミカン1kgを食べたときの、体内被ばく総量は、
0.00013ミリシーベルト=0.13マイクロシーベルト(セシウム 137)から0.00019ミリシーベルト=0.19マイクロシーベルト(セシウム 134)
になります。
つまり、このミカンをたとえ10トン食べても、それによって、体内被ばくする量は2ミリシーベルトより小さいのです。この被ばく量は、ずっと受け続ける被ばく総量ですから、10トン食べても、私たちが1年間に浴びている自然放射能(2ミリシーベルト)よりも少ないのです。
第1、冷凍ミカン1kgあたり数ベクレルのセシウム放射能が心配ならば、食べられる食品が無くなります。ほとんどすべての食品には、カリウムが含まれています。このカリウム1gあたり、30.4ベクレルの放射線がでていますから、ほとんどの食品には、1kgあたり、数十ベクレルから千数百ベクレルの放射能があります。一例を挙げますと、味付けのりは、1kgあたり27gのカリウムがありますので、1kgあたり821ベクレルの放射線を出しています。納豆でも、1Kgあたり201ベクレルです。従って、1kgあたり数ベクレルの放射能しかださない冷凍ミカンを心配することが、如何に空しいことであるかお分かりいただけるでしょう。
さらに言いますと、この冷凍ミカンの微量な放射能を気にするよりも、学校で行うX線の定期検診に疑問を持つべきです。この定期検診で、1回あたり0.1ミリシーベルト以上の放射能を浴びるわけですから、1回の検診で冷凍ミカンを1万個以上食べた量の放射能を浴びることになります。
従って、人々が、冷凍ミカン(1個)でも、子供に危険であると考えるのは、感情面では理解できますが、その一方で、その冷凍ミカン1万個分以上に相当するX線検診を受けるのに抵抗感を持たないのは、理性的とは言えません。
さらに言えば、海外旅行で飛行機に乗った場合も、この冷凍ミカンより桁違いに多い放射線を浴びることになります。
これまで、マスコミで報じられてきた放射能騒ぎは、(私が知り得たものは)病院でレントゲン撮影(5ミリシーベルト以下)やCTスキャンで受ける被ばく量(50ミリシーベルト以下)よりもはるかに少ない放射線量でした。(この医療検査による放射能問題は、今後、検討すべき課題だと思います。)
一部の人々の意図的な扇動(せんどう)は無視できませんが、このような騒動の根本原因は、政府の情報の隠蔽(いんぺい)及び無定見、無政策にあると思います。さらに言えば、(放射能問題に限ったことではありませんが)マスコミの不勉強さ(報道機関としての質の問題)です。
危険な放射能を排除するのは当然ですが、日常浴びている放射線量よりはるかに少ない放射能について、大騒ぎする必要はないと思いますし、すべきではありません。この冷凍ミカンのように、無害なものを売れないようすれば、それで生計を立てている人たちの生活が成り立たなくなるからです。放射能に対してどのような認識を持とうと、日常的に、この冷凍ミカンよりはるかに放射線量の多い食品を楽しんで食べている現実は、直視すべきです。
私たちは、原発事故によって、身近な問題として放射能に関心を持たざるを得なくなりましたが、同時に、放射能についてある程度バランスのとれた認識が必要です。
放射能事故の起こる前から、私たちは放射能にさらされて生活してきました。
そもそも、地球上に放射能と無縁な場所はありません。また、人体を含め、生き物は、炭素原子が主成分になっています。炭素には炭素14という放射性炭素がありますので、動植物を含め、生き物は、必ず放射線を出しています。つまり、野菜や果物でも、カリウム40以外に炭素14による放射能があります。要は、放射線量の問題です。
ですから、自然界や日常摂取している食べ物の放射線量と比べて、極端に少ない放射線量の被ばくについて大騒ぎしても意味がありません。
それは、食べ物や飲み物の検査をして、そこに大腸菌が、5,6個含まれていると言って大騒ぎするのと似ています。飲食物やその容器に大腸菌はつきものです。
ちなみに、人間には、一人あたり100兆個以上の腸内細菌が生息しています。
大飯原発の再稼働について
大飯原発の3、4号機は、とりあえず再稼働することになりました。
再稼働に反対してきた橋下市長も、市民の生活・生命及び地域の経済活動を守ることと大飯原発の再稼働の危険性を天秤にかけ、一時的な再稼働に同意せざるを得なかったようです。(病院が停電になった場合、患者の命に関わることを知らされたための決断だったようです。)
しかし、この混乱の原因は、本来、経済産業省の原子力安全・保安院がその重責を果たしてこなかったことにあります。福島の事故やその後の対応、事故を教訓とした他の原子力発電所に対する安全性の見直しなどについて積極的な対応をしてきたとはとても思えません。原子力安全委員会も、委員が月93万6千円、委員長が月106万円の報酬をもらうこと以外の作業ついては、大変不透明です。
野田首相は、「国政を預かる者として、人々の日常の暮らしを守るという責務を放棄することはできない」と述べていますが、政府がなすべきことをせずに、原発が稼働しない場合の責任を地方自治体の長に押しつけるべきではありません。地方自治体には、このような責任を負う能力がないからです。
これだけの大事故でありながら、誰も刑事告発はおろか、処分もされていません。東電の前会長と前社長については、事故前から様々な伝聞を漏れ聞いていましたが、この事故に関して、当事者能力に欠ける人たちが多数いたことは間違いないでしょう。現実に刑事告発は難しいとしても、処分は必要です。
縛り首になる人がでてもおかしくない状況を招いた責任を、誰もとらないのであれば、再び、当事者能力のない人々が暗躍する非効率な組織ができますし、またそのような組織が増殖します。私には、放射能よりこちらの方が怖いのです。日本の社会は、危機管理に対する認識が大変低く、政府の危機管理能力の欠如は、深刻さを通り越しています。
日本の原子力発電所の問題点は、
起こりうる事故は原子力発電所内に限定して、外部からの危険性に対しては思考停止状態にあった。
従って、事故が起きた場合の対策と訓練が行われる可能性がない。
仲間同士的な検査なので、形式的な定期検査しか行われない。
隠蔽(いんぺい)体質がある。(事故が起きてもなかなか公表せず、また改ざんがある。)
原子力産業は、利権の温床になっている。
などです。
また、原子力発電所の改善すべき点を上げますと、
1.原子炉の近くに緊急冷却用の予備貯水槽をつくる(地下でよい)
2.予備電源の確実な確保(福島では、大半のディーゼルが流されてしまった)
3.遠隔操作ができる作業ロボットの設置
(ロボット大国の日本で、高放射線量下で作業できるロボットが存在しないことは、考えられない)
4.水素再結合装置の完全導入、水素燃焼装置の導入(水素爆発の防止)
5.フィルターベントの設置(放出される放射性物質の量を低減するフィルター付きベント)
6.抜き打ち検査の実施
7.発電所の内外で起こりうる事故の想定と対策(例えば、原発テロ)
などがあります。
これらの問題点(改善すべき点)が、まじめに検討されているのかどうか分かりませんが、少なくとも、大飯原発の再稼働は現状のままで行われます。
政府の原子力行政のお粗末さは、福島の事故が起こったにもかかわらず、外部からの危険要因を未だに考えようとしないことに集約されています。それで、再稼働容認を求めるのは、いささか乱暴すぎるように思います。何の努力もせずに、再稼働しなければ大変なことになるぞと脅すのでは、暴力団と変わりません。
原子力発電に様々な意見があるにせよ、少なくとも、原子力発電は、危機管理が出来ない国で行うべきではありません。
原子力発電を推進する理由として、
原発の代わりになるクリーンエネルギーの開発には時間がかかり、コストも高い、
エネルギーを石油に頼りすぎることは避けなければならない(国際情勢に左右されやすい)、
原子力発電は電力コストが安く(この点は疑問がありますが)、海外貿易での競争力で有利、
発電効率が高い、
二酸化炭素の排出量が少ない、
電力の安定供給が出来る(電力需要の40%近くが原子力発電)、
リサイクル燃料が使える可能性がある(プルサーマル計画が成功した場合)
など、
が考えられます。(短所も負けず劣らずありますが、省略します。)
これらの長所を考慮しても、当然のことながら、危機管理が出来なければ、原子力発電は考えられません。 国民の安全(生命や財産、それを支える経済活動など)を守ることが政府の役割ですが、その根幹が危機管理だからです。政府に危機管理能力が無く、現状維持のまま、国民の利便性をはかろうとする考え方は、本来の政府のあり方とは逆になっています。
なお、民主党政権が今の政府を担っていますが、ここで使っている「政府」には、民主党政権や自民党政権の意味合いはありません。この問題は、自民党政権の時代から続いてきたことですし、私には、このような形で政治的な主張をする意図は全くありませんので、誤解されないようにお願いします。
ついでに、京大が偽計業務妨害で受験生を告訴した件
原発事故の騒動からも分かるように、残念ながら、日本の各界の指導者層には、思考停止状態になっている人々が少なくありません。現状を変えるには、若い人たちの頑張りが必要です。
東日本大震災の少し前に、京大の入試で、入試問題が試験時間中にインターネットの質問サイトに投稿される事件がありました。京大は、その生徒を偽計業務妨害で警察に告訴し、京大総長は、「監督態勢は万全だった」と強弁していました。逮捕された生徒は、京大が一番やりやすかったと言っていたにもかかわらずです。
私にとって、この事件は大変ショックでした。その生徒に対してではなく、大学の対応がショックでした。これは、インターネットを利用した(ハイテクの)カンニングです。それを行った生徒を擁護(ようご)するつもりは毛頭(もうとう)ありませんが、カンニングに対する対応は、受験科目すべてにおいて0点にすることです。どこでもそのようにしているはずです。なぜ、今回だけ警察に逮捕させる必要があったのでしょうか。
この生徒が、問題を試験中に外部にもらしたにせよ、インターネットを通じて見た人は、現在実施している京大の入試問題であることは分かりません。従って、実害が生じる可能性はありませんでした。
想定外のカンニングであったために、大学が予期せぬ事態に対応できなかっただけです。予期せぬ事態に対応することが危機管理の本質であり、危機管理能力の欠如した最高学府など存在してはならないはずです。しかし、現実の大学教員に、誰もそのような能力を期待していないでしょう。この総長も、事態を直視できず、「監督態勢は万全だった」としか言えなかったわけですから、大変失礼な言い方で申し訳ありませんが、思考停止状態にあります。
このような失礼な言い方をせざるを得ないのは、自分たちの職務怠慢及び無責任さを棚に上げて、カンニングした生徒を逮捕させたからです。一義的には生徒に問題があるとしても、責任の一端は、それを見過ごした大学側にあります。責任の取り方が、教育者として、間違っていることに気づくべきです。
がれきの広域処理について
日本政府が活動不能状態に陥っている典型的な例として、がれき処理の問題があります。がれきの大部分は宮城県にありますので、がれき処理の問題は、基本的に宮城県の問題のはずですが、現実には、放射能問題になっています。
広域処理をする理由は、「がれき処理がすすまないために復興処理が進まない」ことのようですが、この理由がよく分かりません。がれき処理がすすまないために復興処理が進まないとしても、では、なぜがれき処理が進まないのでしょう。
阪神淡路大震災の場合、兵庫県はがれきの量を、約2千万トンと推計して対策をたて、実際の処理もほぼ2千万トンで、そのうち、約70%がコンクリート系のがれきでした。また、補助制度の制約から平成7年度中に解体を終え、平成8年度中に処分を終える必要があったために、非常に急いで処理する必要がありました。この制約に縛られたため、約2千万トンのがれきは1年で6割強が処理されました。
まとめますと、阪神淡路大震災のれきの量約2千万トン(コンクリート系70%)、処理期間2年です。
次に、東日本大震災の場合ですが、がれきの大部分は宮城県にあり、岩手県と宮城県のがれき総量は、阪神淡路大震災とほぼ同じ約2千万トン強です。ところが、1年間で処理できた割合はわずか6,7%です。阪神淡路大震災の10分の1です。あまりにも違いすぎます。阪神淡路大震災と異なり、木材などの非コンクリート系のがれきが50%以上という違いがあるにせよ、お粗末すぎます。
阪神淡路大震災の場合は、兵庫県が主体で動いたはずですが、東日本大震災の場合、宮城県の動きが見えません。ゼネコンが主体で、県は積極的に動いてこなかったようです。
また、阪神淡路大震災では、小里 貞利(おざと さだとし)代議士が震災対策担当大臣として、復旧・復興の陣頭指揮にあたりましたが、東日本大震災では、現場で指揮をとる復興担当者がいません。このような無政府に近い状態のまま、がれき処理を各地に分散させることは、無責任のそしりを免れないでしょう。
広域処理するがれきも全体の2割、400万トンにすぎません。その程度の量を広域処理したからと言って、がれき処理が進むとは思えません。しかも、それを各地に運搬するためにどれだけの費用がかかるのか言及がありません。コスト面でも疑問があります。
従って、「がれき処理がすすまないために復興処理が進まない」を広域処理の理由にするには、無理があります。では、次に、この400万トンのがれきが、福島県の放射能汚染地域のがれきが中心である場合を考えてみます。
広域処理の目的が放射能の危険性を各地に分散させて、危険性を無くすことであれば、広域処理の意図は理解できます。
建築資材は再利用、可燃性のものは灰にして処分場近くで保存する形になるようです。しかし、灰にした状態で、キロあたり10,000ベクレル程度の放射線量であれば、広域処理する必要性は無いように思います。
また、可燃性のものを灰にして保存するのであれば、海に流す方が合理的です。以前に、汚染水を海に流したとして、国の内外から批判を浴びましたが、海水にはカリウムだけを考慮しても、海水1Kgあたり、12.1ベクレルの放射線を放出しています。プルトニウムならば、拡散せずに海底にたまる可能性が強く、問題がありますが、灰は海流に乗って拡散され易く、また、セシウム塩になっているはずですから海中に解け易く、比較的短期間でセシウムによる放射能は検出できなくなるはずです。
いずれにしても、この広域処理の問題は、本当に必要ならば、各地で肩代わりして負担を減らすべきでしょうが、無策のつけを各地方自治体に丸投げしただけのように思えます。
ちなみに、10,000ベクレルの線源から1m離れた所で受ける放射線量は、
セシウム137の場合、1日あたり0.000019ミリシ−ベルト=0.019マイクロシ−ベルト
セシウム134の場合、1日あたり0.000055ミリシーベルト=0.055マイクロシ−ベルト
になります。
チェルノブイリ原発事故
チェルノブイリの悲劇的な原発事故は、1986年4月26日に起こりました。この事故で放射能汚染の被害が最も大きかったのは、現在のベラルーシ共和国(白ロシア)でしょう。
このとき、50-60%のヨウ素131、20-40%のセシウム137などが大気中に放出されたと推定されています。
この結果、健康被害として顕著であった、小児甲状腺がんの例を下表に示します。*1)
ベラルーシ共和国における小児甲状腺ガンの(小児10万人あたりの)発生件数
ベラルーシ共和国(年間平均) ゴメリ州(高汚染州)
事故前 0.1件
1990年 1.2件 3.6件
1991年 ・ 11.3件
1992年 2.8件 ・
1994年 3.5件 ・
1995年 4.0件 13.4件
1996年 3.8件 12.0件
この表から、事故後、5年目位から甲状腺がんが増え始め、10年目で最大になっていることが分かります。
1995年に発生件数が最大になっていますが、これは、放射線に起因する甲状腺がんの標準的な潜伏期間約10年と符合しています。何より、高汚染されたゴメリ州の発生件数は、1991年以降、事故前(全国平均)の100倍以上になっています。
また、新生児の先天性障害は、事故後、下表に示すように高汚染地域であるゴメリ州で83%増加していることが報告されています。*2)
ゴメリ州における新生児1000人当りの先天性障害頻度
チェルノブイリ事故前(982-1985年) 事故後(1987-1995年)
4.06 7.45(事故後の増加: 83 %)
チェルノブイリの場合、事故の被害がよく分かりません。上記以外の健康被害もあるだろうと思いますが、被害ありと被害なしの情報が交錯しているため、省略いたしました。
高汚染されたゴメリ州の甲状腺がん発生件数は、1991年以降、事故前の100倍以上という驚くべき数値であり、放射能の影響が明白ですが、同時に、その発生件数が小児10万人あたり年間10人強という少なさにも驚かされます。小児1万人に年間1人強しか甲状腺がんが発生していません。実際には、放射能汚染によって、多数の小児の甲状腺にがん細胞が発生した可能性はありますが、現実に、がんとして増殖した例はきわめて少ないということです。
つまり、放射能はがん因子ではあっても、がんとしての発症能力は高くないことになります。経験則通りといえばその通りですが。逆に言えば、ほとんどの小児の免疫力は強力であり、増殖阻止の役割を果たしているということです。不幸にして、甲状腺がんになった小児たちには特別な事情があったのかもしれませんが、基本的に免疫力が弱かった(冷えがあった)と考えられます。
発症被害のあった人たちが大変な危害を受けられたことは、重く受け止めなければなりませんが、50-60%のヨウ素131や20-40%のセシウム137などが広範囲に拡散したにもかかわらず、がんなどの健康被害が少ないことに驚かされます。チェルノブイリ原発事故については、分からないことが多く、断定的に言えることは少ないと思いますが、しかし、本当に不思議です。
*1)菅谷 昭,ユーリ・E・デミチク,エフゲニー・P・デミチク、ベラルーシにおけるチェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺ガンの現状、http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/saigai/Sgny-J.html
*2)チェルノブイリ原発事故によるベラルーシでの遺伝的影響、ゲンナジー・ラズューク、佐藤幸男、ドミトリ・ニコラエフ、イリーナ・ノビコワ、http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/saigai/Lazjuk-J.html